2022年5月にリニューアルされたマツダミュージアムは、マツダ車の過去、現在、未来をストーリーに沿って体感できる4D博物館です。
クルマを見て、触れるだけでなく、製造工程の音や匂いも体感できるので、クルマに関心を持っていない人でも、興味を持つきっかけになるでしょう。
クルマ好き、特にマツダ車に興味があったり、マツダ車に乗っていたりする人にとっては、過去や未来のマツダ車を知り、現在のクルマの誕生にも立ち会える「聖地」と言っても過言ではありません。
事前予約制ながら、無料で楽しめる大人の体験型ミュージアム。未体験の方には是非お薦めします。
そんなマツダミュージアムへの訪問記を前編、後編の2回に分けてお届けします。
今回は、後編です。
3-3-3 モータースポーツへの挑戦
ゾーン4 企業と技術の威信をかけた世界への挑戦 Motor Sport
マツダのモータースポーツといえば、1991年のル・マンで「マツダ787B」が総合優勝を果たしたことが最大の功績でしょう。ロータリーエンジンの実力を世界に示しました。もちろん、そこをフィーチャーした展示となっています。
3-3-4 バブル期を乗り越え新たな部安堵戦略へ
ゾーン5 さらなる飛躍を期した「攻め」の拡大戦略 1986-1995
ゾーン6 ブランド戦略を重視し新たな成長路線へ 1996-2009
バブル期を挟んだ前後期間、マツダは、事業の拡大と収縮を一気に経験します。そんな時代は、名車の豊作の時期でもありました。
1985年に発売され、その美しさから今でもファンが多いのが2代目のRX-7、通称「セブン」です。
展示車は、カブリオレでした。
1989年当時のユーノス店で発売されたユーノス・ロードスターです。通称「NA」です。
世界にライトウエイトスポーツ車の魅力を発信し、他メーカーから多くの類似車両が発売されるきっかけとなりました。世界の自動車のトレンドを変えた1台です。
ロードスターに興味がある方はこちらの記事もご覧ください。
1991年、アンフィニ店から発売されたアンフィニ・RX-7(FD3S型)です。3代目のセブンは、通称「FD」と呼ばれ、いまも熱烈なファンに愛される名車です。
リアのスタイルが秀逸です。惚れ惚れするほどの造形です。
「際立つデザイン」「抜群の機能性」「反応の優れたハンドリングと走行性能」の特性を表現した新世代のマツダ車もこの時期に生まれています。
”Zoom-Zoom”(子どもの時に感じた動くことへの感動)という新しいブランドメッセージの展開がはじまったのもこの時期です。
3-3-5 現在のマツダ車
ゾーン7 世界一のクルマを造る技術とデザイン 2010-Today
最近のマツダ車の展示ゾーンです。先代のCX-5、アクセラ、ロードスターNDが並んでいます。
今のマツダ車が過去の流れの中で生み出されたことが、実感として伝わってきます。クルマは時代を映し、常に未来を想像して試行錯誤を繰り返した上に成り立っているように思えます。
現代のマツダのテーマカラーであるソウルレッドもこの時代だからこそ映えるということなのでしょう。
生産車の展示の最後を飾るのがロードスターです。このミュージアムで最初に迎えてくれるクルマもロードスターでした。マツダが自社を象徴するアイコンとしてロードスターを大切にしていることが伝わってきます。
3-3-6 マツダのモノ造り
ゾーン8 人を第一に考えるマツダのモノ造り technology
このゾーンでまず目に飛び込んでくるのが、衝突でつぶされたクルマの実物。CX-30でしょうか。迫力がありますし、クルマの危険性を改めて突きつけられます。
ただ、これだけ大きな衝突を受けても、キャビンスペースへのダメージが少ないことに驚かされます。実際、前席のドアは普通に開きました(ガイド役の社員さんが実際に開いてくれました。)。
実験・研究から完成車ができるまでのプロセスがパネルと一部の実物で説明されています。次の工場見学への助走として、事前学習的な役割があります。
プレスの工程でのこだわりを表現した展示です。曲面の精度の高さを表現するため、線状に並行したライトが車体のフロントフェンダーを照らしています。ロードスターのものですが、滑らかで複雑な曲線が精度高く仕上げられていることがわかります。
塗装の進化を表現しています。過去の名車で使われた「赤」であるトゥルーレッド(下)と現在のマツダカラーのソウルレッドクリスタル(上)を比較すると上の方が明らかに深く表情豊かで上質な塗装だとわかります。「匠の技を量産化」と解説されていますが頷けます。
3-3-7 マツダ工場の見学
ゾーン9 皆様のクルマはこうして生まれる Assembly Line
ゾーン8を過ぎて廊下を進むと、急に別世界に突入します。車両の組立工場の中心部に出るのです。ミュージアムを工場内に設置したのは、このためだと言えるでしょう。その効果は絶大です。
「どこでもドア」で移動したかのような激変ぶりです。薄暗く静かなミュージアムとは異なり、照度の高い照明の下、多くの作業者が動き回る熱量の高い空間へ瞬間的に移動する体験はテーマパーク級のものです。
工場に入ると、2階のテラスのような見学場所で、工場内の作業の様子が一望できます。
そのテラスに踏み入れると、すぐに機械やチェーンの動く金属音、チャイムやベルの音など雑多な音がかなりの音量で耳に飛び込んできます。
そして、潤滑油、ウレタン、接着剤などの薬品の匂いも漂っています。
訪問当日は、ロードスター(MX-5)、ロードスターRF、CX-30、MX-30の混合生産が行われていました。
車体に車輪とエンジンが組み込まれた後の車両が工場の1階のフロアをのんびり歩く程度の速度で1列になって流れていきます。
車種だけでなく、車体色、ハンドル位置(左右)もバラバラな車両がランダムに進んでいく様は、渋滞中のクルマの列に見えなくもありません。
車両の隣には、これから取り付けられるパーツが大きなワゴンに乗って、車両とセットで動いていきます。
左右のハンドル、ルーフの形状、車体色の区別なくロードスターが流れていて、みるみるクルマらしくなっていきます。左ハンドルのリアの車名プレートには、「MX-5」(ロードスターの外国名称)の文字があります。世界中でロードスターが走っていることをリアルに想像できました。
取り付け担当の作業者がワゴンからダッシュボード、シート、コンソール類などのパーツをとって車両に取り付けていきます。
作業者は、同じ作業を繰り返すのではなく、車両に応じて取り付ける部品も場所も異なるところに迷いもなく取り付けていきます。いかにも熟練の作業です。
一部の行程は完全に機械化されており、フロントウインドーの取り付けでは、ロボットがウインドーの端を縁取るようにミリ単位の狂いもなく、正確に接着剤を塗布していました。
人とロボットが協働してクルマが作られることが実感できます。
マツダミュージアムでは、このゾーンがクライマックスと言えます。過去のストーリーを見てきたからこそ、現在のクルマ造りが数々の知恵や工夫、試行錯誤の結果の上に成り立っていると感じることができます。
順路をたどっていくと、自然光が窓から差し込むコーナーにたどり着きました。
自動車運搬船の縮尺模型が2隻ほど展示されています。
窓から外を眺めると、遠くに岸壁と接岸した自動車運搬船が見えます。ちょうど上の写真のような景色が広がります。泊まっているのは車両運搬船 “GREEN BAY” です。
駐車スペースには、完成車が所せましと並んでいました。
工場で作られた完成車が、一時的に保管され、次々と船に積み込まれています。工場から直接、日本各地に、世界に、マツダ車が運ばれていくのです。
“GREEN BAY” はアメリカ船籍の車両運搬船ですから、アメリカに輸出されていくのかもしれません。
3-3-7 マツダの未来
ゾーン10 人と共に創る Toward the Next 100 years
未来のマツダが表現されたコーナーです。
鼓動デザインの根幹をイメージしたオブジェです。生命感が表現されていることがわかります。躍動する生き物のようです。
2017年の東京モーターショーで披露された “MAZDA KAI CONCEPT”だと思われます。
今見ると、マツダ3のファストバックはほぼこのコンセプトに沿ってデザインされたことがわかります。
あまり人気の車種とはなりませんでしたが、国産車の中では、屈指のデザインです。
この“MAZDA RX-VISION”は2015年の東京モーターショーで発表したコンセプトカーです。次世代のロータリーエンジンを搭載する予定のモデルです。
デザインテーマ「魂動(こどう)-Soul of Motion」に基づき、マツダが考える最も美しいFRスポーツカーの造形に挑戦したデザインということです。
“MAZDA VISION COUPE”です。
2018年、スイス・ジュネーブで開催された「第11回 Car Design Night」にて、「コンセプトカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したモデルです。マツダは、「引き算の美学を体現したシンプルなフォルム」としています。
未来のマツダを予感させるデザインでミュージアムの展示は終了です。
4 予約方法
2023年2月現在、マツダミュージアムへの入場は、こちらのサイトからの事前予約制になります。
マツダミュージアムウェブサイト
マツダが用意した過去から現在、そして未来につながるストーリー。普通のミュージアムでは体験できない、4Dの映画のように「体感」できるミュージアムでした。ミュージアムを後にした街の風景は、ちょっと変わって感じました。道行くどのクルマにもクルマ作りに携わった人たちの思いや歴史が宿っていると感じられるようでした。
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