あなたは、今乗っている車の相場をご存じでしょうか。
中古車は、車種や年式、総距離が同じでも、個体差が大きいので、相場をイメージしにくいですが、案外、はっきりとした「相場」があります。
中古車の相場と一言で言っても、買取相場、流通相場、小売相場と3種類あるので、複雑そうですが、一番大事なのは、「流通相場」です。
ただ、一般のユーザーが流通相場を知ることは難しい面があります。
流通相場が中古車業者しか出入りできないオートオークション(Auto Auction。通称「AA」)で決まっているからです。
車の売却を成功させるために最も大事なことに一つに、売却する車の流通相場を知ることが挙げられます。
今回は、車売却の心得15箇条の③「オートオークションを知る者がクルマの売却を制する!」です。
オートオークションと流通相場について解説します。
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「車売却の心得え」シリーズの最終回はこちらをご覧ください。
1 中古車相場を決めるオートオークションとは
1-1 オートオークションの概況
オートオークションは、古物商許可証を持つ中古車業者だけが参加できる中古車の取引市場です。一般のユーザーは立ち入るはできません。
引用:事業構想 project design on-line
この写真で確認できるように大規模な会場では、何千台もの中古車が集められています。
全国に120カ所以上のオートオークション会場があり、それぞれ週に1度オークション(「競り」(セリ)と言われています)が行われます。オークション会場は、大別すると3種類あります。
東証プライム市場に上場している株式会社ユー・エス・エスが運営する日本最大級のUSS会場(全国で19会場)、株式会社シーエーエーが運営するCAA会場(全国4会場)などオートオークションを主業とする事業者による「企業系」と呼ばれるオークション会場です。規模の大きさを誇り、低価格の中古車から高級車あらゆる中古車が流通する拠点となっています。平均の成約単価が高い傾向があります。
トヨタの子会社が運営するTAA(トヨタ・オート・オークション)、日産系のNAA(ニッサン・オート・オークション)、そのほかにホンダやスバルの系列の会場などメーカー系の関連会社が運営するオークション会場です。出品者も落札者もオートオークションと同じ系列のディーラーがメインの会員です。ディーラーが出品するので、程度の良い中古車が多く成約率も高いのが特徴です。
全国組織である自動車販売協会連合会(JU)の傘下の都道府県の組合が運営するオークション会場です。もともと、中古車販売店の業界団体である中古自動車販売商工組合が中小の中古車販売店のために設置した会場です。歴史が古く、地方ごとに多くの会場が設置されているという特徴があります。低年式の中古車多く平均の成約単価が低いのが特徴です。
それぞれの出品車両台数のシェアは次のとおりです。
ご覧のとおり、企業系オークション会場が中古車流通のメインストリームであることがわかります。中でも、USS(株式会社ユー・エス・エス)は、1社で約37%※1のシェアを占めますから、USSがリーディングパンパニーであると言えるでしょう。
ここで行われるオークションは、出品される中古車を会場に集めてセリを行う、現車オークションと言われる方式をとっています。
現車オークション以外には、オークネットに代表される、インターネット上で開催されるオークションもあります。ネット上のオークションは、出品するクルマを会場に運ぶ必要はなく、出品する車両を中古車販売店の店頭に置いたままでも出品することができるのが特徴です。ただし、全体から見ると市場は小さく、現車オークションが圧倒的な比率となっています。
1-2 オートオークションの役割
中古車の流通市場におけるオートオークションの役割は、次の図で示すとおりです。
オートオークションは、中古車を出品する新車ディーラーや中古車買取店と中古車を落札する中古車販売店や中古車輸出事業者をつなぐ要(かなめ)の役割を果たしています。
全国のオートオークション会場で年間に出品される中古車は、1年間に710万台※1。
そのうち、成約に至るのが456万台※1です。実に、中古車の約8割がオートオークションを経由して取り引きされています※2。
このようにオートオークションが流通の要(かなめ)になっているのは、売り手側と買い手側の双方のニーズを満たす機能があるからです。
全国のディーラーや中古車買取店は、時間の経過とともに価値が下がってしまう中古車を一刻も早く現金化したいわけです。
裏を返せば、現金ができる目途が立っているからこそ、積極的にユーザーから中古車を仕入れることができます。
一方、中古車販売店や中古車輸出事業者は、自らの顧客に合った中古車を仕入れたり、外国のバイヤーから注文の入った特定の車種や年式のクルマを仕入れたりしようとします。
このような需要と供給の橋渡しをしているのがオートオークションなのです。
※1 2020年実績(出典:株式会社ユー・エス・エスの「統合報告書2021」より。)
※2 2021年の国内中古車販売台数の推計268万5千台(株式会社矢野経済研究所調べ)
上の図でディーラーや中古車買取店は、ユーザーから買い取った中古車を直接小売りすることもできるでしょ。なぜ、オートオークションを利用するの?
それは、ディーラーや買取専門店にとって、買い取る中古車が必ずしも自社で売りやすいクルマとは限らないからだよ。お店はユーザーが持ち込んでくる中古車を選ぶことができないでしょ。自社の顧客に合わない中古車を買い取ってしまった場合には、転売するしかないからさ。
1-3 オートオークション会場への会員登録
会場ごとに入会の条件は異なりますが、共通していえるのは次の条件です。
古物商許可証を受けている中古車業者であること
これ以外にも会場ごとに条件が異なりますが、厳しいと言われるUSSでは、さらに次のような条件も付きます。
- 古物商許可証を受けてから1年以上が経過していること
- 常設の展示場や事務所があること
- 連帯保証人を用意すること
- 補償金を10万円預託すること
このように条件を厳しくするのは、粗悪な中古車の出品や落札代金の未払いを発生させないようにするためです。そのようにしてオークション会場は、信頼を獲得しようとしているのです。
現在、USSには、中古車販売業者、中古車輸出業者、廃車買取業者など約4万8千社※が会員として登録しています。
※ 出典:USSのウェブサイト。正確には48,058社(2021年3月31日現在)
1-4 オートオークションへの出品から落札までの流れ
オートオークションでは、実際にどのような手順でオークションが行われているのでしょうか。例えばUSSをモデルに、出品から落札までの流れをまとめてみました。
ポイントごとの具体的な内容は次のとおりです。
ポイント | 内容 |
---|---|
①出品者による車両の入庫 | 出品者が会場の出品ヤードと呼ばれるエリアに出品車両を入庫する。 |
②出品車両の評価 | オークション会社の検査員によって出品車両が評価されデータ化される。 |
③出品車両の登録 | オークション会社のデータベースへ登録され、インターネットなどを通じて入札者が確認できる状態となる。 |
④入札者によるデータ閲覧と出品車両の下見 | 入札者がデータを確認して、現車の下見を行う。インターネットでセリに参加する場合には、現車の下見を代行するサービスを利用することもできる。 |
⑤セリ・応札 | 出品者がスタート価格(セリを開始する金額)と売り切り価格(最低落札金額とも言われる)を設定する。出品者は売り切り価格を超える応札がなければ、出品車両を売却しなくとも良い。 一方、応札額が売り切り価格以上の額となれば、その額での売却が必須となる。 |
⑥落札 | 売り切り価格以上の応札をした業者の中で最高額を付けた業者が落札者となる。売り切り価格を下回ると流札(オークションが不成立)になる。流札になった車両は出品者が引き取るか、そのまま翌週のオークションに出品するかを選択する。ただ、商談落札といって、一度流札になっても業者同士の話し合いで、売買額を合意し、落札扱いになる場合もある。 |
⑦落札者による出庫 | 落札した業者が責任を持って落札した車両を引き取る。 |
⑧代金精算 | 落札代金は、いったんオークション会社に振り込まれた後、出品者にオークション会社に支払われる。 |
USSの場合には、このような手順で常時平行して4台から12台がセリにかけられていきます。1台の成約に要する時間は、20秒程度です。
1-5 オートオークションの出品と成約にかかる費用
出品者及び落札者は、いずれもオークション会社にオークションの利用に伴う費用を支払う必要があります。例えば、USSの場合には、出費車両1台当たり、次の費用が必要です。
表中で「平均」としているのは、USSが大口の中古車業者に対して料金の割引を適用し、複数の料金単価を設定しているためです。
2 流通相場の形成と車売却における流通相場の役割
2-1 中古車の相場の形成
中古車業者は、オートオークションで中古車を売買することができなければ商売が成り立ちませんので、いずれかのオートオークション会場に会員登録をしています。会員登録した事業者は、インターネットを通じて、登録した会場で過去に出品された中古車が落札された実績額を確認することができます。会場を横断して落札実績額を確認できるシステムも普及しているため、中古車業者は、あらゆる中古車の流通相場を確認できる状況にあるわけです。
このように中古車業者間で情報が共有されているため、同車種で同じような条件(年式、車体色、走行距離、修復歴の有無など)の中古車の流通相場が形成されているのです。
ただし、流通相場は常に固定されているものではなく、地域間の差異や移ろいやすい性質があることには注意が必要です。地方や会場によって、同条件の中古車であっても異なる落札額になる場合があります。また、時期的な変動もあり、毎週開かれるオークションごとに実績額は変化します。中古車業者は、このような変動を念頭に入れながら、これまでの経験を踏まえて流通相場を把握しているのです。
2-2 車売却における流通相場の役割
それでは、ユーザーがクルマを売却するときに、流通相場は何らかの役に立つのでしょうか。
スバリ、「愛車の売却するときには、流通相場の額を目標額とするべきである」
ということです。
順番に説明します。
まず、中古車の相場には、大きく3種類あると言われています。次のとおりです。
① 買取相場
中古車の買取店がユーザーからクルマを買い取るときの相場です。
② 流通相場
中古車の業者同士での取引の相場です。オートオークションの落札実績額で決まり、業者間で共有されています。中古車販売店の仕入れ値といっても良いでしょう。
③ 小売相場
中古車の販売店が一般の顧客に中古車を販売するときの相場です。
クルマを売却したユーザーが受け取る買取額に買取店の利益や経費が乗せられた額が流通相場。その流通相場の額に中古車販売店の利益と経費が更に乗せられた額が小売相場となります。
つまり、買取相場 < 流通相場 < 小売相場となるわけです。
具体例で考えてみます。
ユーザーAが中古車買取店に売却した中古車が販売店にわたり、ユーザーBがその中古車を購入するという例です。
ユーザーBが中古車販売店から購入した金額を100万円とした場合、その金額の内訳(価格構成)は次の図のとおりとなります。
①ユーザーAは、愛車を買取専門店に65万円で売却
②中古車買取店は、買い取った中古車に10万円の利益を乗せてオートオークションに出品(買取専門店の利益と費用は、買い取った中古車の価格の10~20%と言われています。)
③オートオークションでは、出品手数料、成約手数料、落札手数料と陸送費として約7万円必要であり、これを加味した79万円で中古車販売店が落札
④中古車販売店は、79万円にオークション費用と自らの利益18万円を乗せて、ユーザーBに売却(中古車販売店の利益と費用は、中古車販売額の15~30%と言われています。)
この例では、65万円が「買取相場」、79万円が「流通相場」になります。
また、100万円が販売額が「小売相場」になります。
ユーザーからすれば、街でよく見かける中古車買取店に愛車を持ち込んだ時に買い取ってくれる金額の相場である買取相場が重要だと思ってしまうかもしれません。
しかし、流通相場の額で中古車を仕入れている中古車業者が存在しているわけですから、このような中古車業者を見つけることができれば、流通相場の額で愛車を売却することができるわけです。
ちなみに、上の例から、100万円の小売相場で愛車を売却するのが一番お得なのではないかと思われるかもしれません。しかし、ユーザーBからすると、見知らぬ個人から、状態がわからない中古車を購入するより、修理対応などもしてくれる中古車販売店から購入したいと思うでしょう。このため、ユーザーAが100万円で愛車を売却するのは現実的には不可能に近いのです。
このように、愛車を売却する際には、買取相場の額で売却することが一般的なわけですが、オートオークションの仕組みを理解していれば、流通相場が適正な価格であるとわかります。
以上のことから、
「愛車の売却するときには、流通相場の額を目標額とするべきである」
と言えるということです。
なお、具体的なクルマの流通相場の調べ方は、次の記事をご覧ください。
★筆者のコメント
これまで何度もクルマを買い換えてきて、数々のディーラーや中古車販売店に出向いて、担当者や店長と話しをしてきましたが、オートオークションのことが話題に上ったことはありませんでした。
中古車の流通に関わる業者さんは、オートオークションの存在をあまりはっきりとは説明してくれないようです。オートオークションの相場(つまり流通相場)をユーザーに意識させてしてしまうと、クルマの下取りや買い取りの際、業者の利幅が明らかになってしまうためと推測されます。
確かに、もし、昔の筆者がこのことを知っていたら、ディーラーの下取りなんて決して利用しなかったと思いますし、安易に買取店に愛車を持ち込むこともなかったと思います。
そういう意味では、多くの自動車ユーザーに是非知ってもらいたい内容です。
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